独学者の手記

独学者のメモです。

社会主義覚書(5) マルクスの戦略的平和

マルクスは『共産党宣言』Ⅳで共産主義者について次のように述べます。

「かれらは、労働者階級の、直接に当面する諸目的と諸利益の達成のために闘争するが、しかしかれらは、現在の運動のなかで、同時に運動の未来を代表する。」〔『共産党宣言共産主義の諸原理』マルクスエンゲルス、水田洋訳、講談社学術文庫65頁〕

つまり、共産主義者は労働者階級の目先の利益のために運動するのですが、同時に労働者階級の未来を見据えても行動するのです。換言すれば、後々不利益を生むと知りながらも、いまは利益になるのでブルジョア階級とは助け合うのです。そうしてやがてブルジョア階級が自らの不利益になった暁には、躊躇いもなく倒すのです。だからマルクスは次のようにも述べるのです。

「ドイツでは、共産党は、ブルジョアジーが革命的にふるまうかぎり、ブルジョアジーと共同して絶対王政、封建的土地所有、小市民層と闘争する。/しかしかれらは、ブルジョアジープロレタリアートの敵対的対立についての、できるだけ明白な意識を、労働者のうちにつくりだすことを、いかなる瞬間にも放棄しない。……こうして、ドイツにおける反動的諸階級の妨害ののちに、ただちにブルジョアジー自身にたいする闘争がはじまるようにするためである。」〔同66頁〕

共産主義者は、「いかなる瞬間にも」労働者に資本家に対する敵対的意識を抱かせようとするのです。両階級における敵対性は絶対的なのです。マルクスが労働者に資本家との協調を呼び掛けるとしたら、それはせいぜい束の間のことであり、あるいは戦略的なものなのではないでしょうか。マルクスの協調的平和主義は戦略に過ぎないのではないでしょうか。